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ユーレカの日々 [36] いつかアマゾンでいっぱいの空

普段、大学への通勤にディパックを使っている。昔はショルダーバッグ派だったが、腰を痛めてからはディパック専門になった。

ハイキング用のものを長い間使っていたが、これがだいぶ傷んでしまい、次に買ったのがIKEAで見つけたオレンジ色のもの。ぼくはオレンジ色のモノに極度に弱い。幼稚園の年少の時、ぼくは「だいだい(色)組」だった。それ以来、オレンジは自分のパーソナルカラーなのだ。めちゃくちゃ安かったので買っては見たが、重たいのと、ポケットがほとんどなくて、ぼくとしては使い勝手はイマイチ。

そこで今年のはじめに、たまたまネットで見かけた合皮製のバッグを衝動買い。ところがこれが大ハズレで、使いにくいわ、すぐにほつれたりしてくるわで、またまた買い換える必要が出てきた。

●STAR WARSのバックパック

町やアマゾンで色々と物色してみるが、いまひとつ、これといったモノが見つからない。さらにネットで探しているうちに、「これはっ!」というモノを見つけた。STAR WARSの反乱軍パイロットスーツ(最初のSTAR WARSのデス・スター攻撃の時のルークのコスチュームね)をモチーフにデザインされたディパックだ。オレンジをベースに、ポケットなどは白いクッション状になっている。反乱軍のシンボルマークもさりげなく、一見、キャラクター商品には見えない、よく出来たデザインだ。もとのコスチュームがミリタリーをモチーフにしているので、違和感がないのだ。ポケットなど使い勝手もよさそうだし、特にオレンジなのがイイ。

しかし、幾つか問題があった。ひとつは国内では販売しているところが極度に少ないこと。ぼくが調べた時は一件しかなかった。もうひとつは、前のリュックが通販で買って大失敗だったので、実物を見ずに購入するのが不安であること。なんせSTAR WARSのキャラクター商品だ。チャチな子供向け商品である可能性も十分にある。

この時点で、しらばくスルーしていたのだが、いよいよその失敗したバッグが破れてきて、本気で買い替えの必要が出てきた。そこで、再度、このリュックのことを調べることにした。

●YouTubeのナイスガイ

家電製品であれば、メーカーサイトの説明や、PDFで配布されているマニュアルを読むことで、購入前に知りたい情報を大抵、得ることができる。しかし、アパレルなどはなかなか、実物の感じが掴めない。販売店などではあまり情報がなかったのだが、ふと「YouTube」で検索してみたところ、レビュー映像が見つかった。アメリカンなナイスガイが、このバッグのシリーズ(反乱軍の他に、帝国軍ベイダーをモチーフにしたものと、賞金稼ぎボバ・フェットモチーフのものがある)をレビューしてくれていたのだ。

商品レビューというのは今やYouTubeの一大ジャンルだ。特にカメラや、パソコン周辺機器類は非常に豊富で、様々な人が様々な商品をレビューしてくれている。みな素人さんなので、皆さん自宅の部屋撮りなのだが、キャラのたっているレビュアーも多い。アメリカンなナイスガイは、全てのポケット、ジッパーの金具、場所によって異なる素材まで事細かに映像で説明してくれる。映像なので、生地の厚さ、柔らかさなど、写真では分からないこともよくわかる。どうやら商品は、かなりしっかりと作られており、実用物として合格点のようだ。ますます欲しくなる。

さて、もうひとつの問題である、どこで購入するか、だ。日本の販売店だと1.5万〜2万くらい。ちょっと高い気がする。海外のサイトを調べてみると、もともと1万円くらいのものを、今では6〜7000円くらいで売っている。ちょっとではなかった。半額ではないか。しかし発売されてから時間がたっているのか、海外でも扱っているサイトは少ない。さてどうする?

●アマゾンで個人輸入に挑戦

改めて調べてみるとアメリカのアマゾンで扱っている。価格も他のネットショップと変わらない。以前、アマゾンであれば個人輸入も簡単と聞いたことがある。この機会だ、個人輸入に初挑戦することに決めた。

さすが最大手、アマゾンからの個人輸入について説明をしてくれているサイトがいくつもある。それをガイドに、購入手続きを進める。

アメリカアマゾンでアカウントを作り、発送先情報などを登録する。

最初、購入手続きを進めると「アンタの住んでるトコには発送できないよーん」と言われてしまった。はやくもアウトか、と思ったが、アマゾンでは、同じ商品でもアマゾン直売や、マーケットプレイスなど複数の販売者がある場合がある。この商品は3つほどの販売があるので、片っ端から試してみることに。すると、1件、海外発送が可能!よし、買えるぞ!

次は気になる送料だ。手続きを進めると、送料が表示された。約4000円。うーむ、けっこうかかる。それでも国内で買うよりは安い。さらによく見ると、発送方法に2種類ある。試しにデフォルトでない方を選んでみると、約2000円!しかもそっちの方が納期が早い。関税が気になったが、トータルで1万円以下ということで、もしかかったとしても大した金額にはならないだろうと、購入決定!

関税については、あとで調べてみると、購入合計16,666円までは無料だった。もし関税が必要な場合でも、海外発送送料に含まれて購入時に精算されるそうで、追加でかかることは無いらしい。

すぐにアメリカアマゾンから購入確認のメールが届く。翌日には発送メールと、DHLからは日本語のメールで伝票番号が届く。それによると、およそ3日で届くという。送料2000円しか払ってないのに、いいのか?こんなに早くて。

●簡単すぎる個人輸入

DHLの荷物状況レポートは詳しくて、見ているだけで楽しい。ケンタッキーから発送され、シンシナティへ。そこから大阪へ。着いた!と思ったらなぜか一旦東京へ。そこから大阪へ引き返して税関を通過。発送から4日後、商品が無事配達された。受け取った家人によると、受け取りはハンコではなく、タブレット端末にサインさせられたとのこと。

さて、開封と思って玄関を見渡したが、箱がない。ディパック、それなりの大きさの箱のはずだ。はて、どこに?と思ったら、箱のかわりに大きなビニール袋。箱なしで、ビニール袋状態で直接送られてきたのだ。

日本のアマゾンでアパレル関係を購入したことがないのだが、ユニクロの通販などでも、普通、箱で送られてくる。厚手のビニール袋には「アマゾン clothing」とプリントされている。うーん、アメリカン。

商品はしっかりしていて、これなら長く使えそうだ。ポケットの位置なども、使い勝手がよく考えられている。特にオレンジなのがイイ。

というわけで、実にあっさりとお目当ての商品が手に入ってしまった。申し込んでから手に入れるまで5日。あっさりである。一度目なので送付先などを登録する手間があったが、今やぼくのamazon.comでは、日本のamazon.co.jpとなんら変わらない手軽さで買い物ができる。送料はかかったが、それでも日本の業者から買うより、相当安く手に入れることができた。あっさりすぎて、ちょっと考えてしまった。

●世界のアマゾンがひとつになったら

各国のアマゾンは今はまだ、各国それぞれで運営されているが、これが一元化されるとどうなるだろう?各商品のデータベースが多国語対応になれば、国別で分かれている必要はなくなる。そうなれば、日本のアマゾンで商品を検索すると、世界中の商品からリストアップされるようになる。「こちらでも買えますよ」には海外アマゾンが入ってくる。物によっては今回のように、送料がかかっても海外から買ったほうが安い、ということも起きてくるだろう。

TPPが進めば、関税がかからない範囲も拡大される。こうなってくると、国外から買っているのか、国内から買っているのかなど、意識することもなくなってくる。

こんな売り方されたら国内の小売業はたまらんだろう、と思うが、逆にマーケットプレイスを使ってだれでも世界に向けて販売できるシステム、と考えると悪いことではない気もする。いっそ、楽天もヨドバシも、アマゾンで販売するのはどうだろうか。実際、関西の家電販売大手「ジョーシン」は、自前のネット通販と平行して、アマゾンのマーケットプレイスでも販売をしている。最初見た時は奇妙な感じがしたものだが、これは流れなのかもしれない。

●アマゾンというインフラ

こうなってくるともう、アマゾンは単なる通販小売業ではなくなる(今でも十分、化け物だが)。じゃあ何か、と言うと、インフラだ。インターネットのように、世界中の人々が利用できる、生活に無くてはならないものになる。

なんでもアマゾンで買えるとなってくると、アマゾンは通貨を発行するかもしれない。外部の販売者に対しての支払いを、現金ではなくアマゾンのクーポンで支払う。今でもアドセンスで行われている方法だ。個人同士で少額のお金を送金する時、時々アマゾンのギフトを使うことがある。相手も普段アマゾンを利用しているのであれば、送金手数料がかからず、決済はいつものアマゾンアカウントで済むギフト券が楽だ。昔よく「商品代金分の切手」を現金代わりに送るというのがあったが、あれと同じ。現金よりアマゾンクーポンの方が手数料などがかからないならメリットが出てくる。

そのうち、アマゾンクーポンを使える、外部の提携店が出てくる。TSUTAYAやヨドバシのポイントが使える飲食店があるように。今後スマホでの決済が普及すれば、あっというまだろう。こうなってくると、現在は現金取引で安値で提供している、価格.comにランキングされるような小売業者も、アマゾンで販売するようになる。そのうち社員への給料をアマゾンのクーポンで支払う会社が出てくるかもしれない。

●アマゾン帝国の誕生

通貨というのは国家が発行する。国家が「未来」を保障することで、様々な価値を紙切れや数字に置き換える仕組みだ。それが一企業にできるのだろうか?

国家だってアルゼンチンにギリシアのように破産することはある。破産ということは、その国の通貨が意味をなさなくなるということだ。

とすれば、国境を超えた市場となったアマゾンの方が、永続性だって五分五分ではなかろうか?ドルや円より、アマゾンクーポンの方が強くなるかもしれないのだ。

物流の壁は、無数のドローンと3Dプリンタが解決する。どんな僻地であっても、現地の3Dプリンタが製品を出力し、翌日には配達される。空には無数の配達ドローンが群れをなして飛び交う。ひょっとしたら配達ドローンは反アマゾンテロに対抗するため武装するかもしれない。

ここまで来ればアマゾンはすでに、新しい国家だ。領土・国民・主権という旧来の概念と共存する、新しい概念のグローバル国家だ。世界中が利用する市場は、世界中がその存在を支える。利益はアマゾンの運営に充てられる。インターネットと同じく、アマゾンが存在しない世界にはもう、戻れなくなる。

うーむ、一社独占で恐ろしい未来のような気もするが、でも便利そうだ。なんだか本当にアマゾンだけでいいような気がしてきた。

グローバル化、というキーワードがあちこちで言われる昨今だが、それは単純な国際化、人やモノの流通を促進するだけではないだろう。旧来の前提をどんどん覆していく。アマゾンはぼくらが考えている以上に、世の中の仕組みまで変えてしまうかもしれない。古いバッグから、新しいディパックに物を移しながら、そんなことを考えるのだ。

初出:【日刊デジタルクリエイターズ】 No.3772    2014/10/01

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